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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Column

2021.05.01 (sat)

ニュートラをさがして
竹細工を通して見る、ものをつくる喜び

文・引地一郎(ワークプレイス ハイホー 管理者)

さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第七弾は、鹿児島の福祉施設「ワークプレイス ハイホー」の引地さん。地域の素材や文化、技術に目を向け、障害のある人たちの得意を生かすものづくりとはーー。

昔、父が所有する竹山に連れて行かれたことを、ふと思い出し、竹山があるなら竹を活用すべきではないかと考え、竹細工を学び始めた。仕事も趣味も長続きしないのに、竹細工だけは、(いまのところ)続いている。後にわかったことだが、実家の竹山の竹は、竹細工には不向きな種類の竹であった……。

私の住んでいる鹿児島県は、全国一の竹林面積を持ち、竹工芸は鹿児島県の伝統工芸に指定されている。しかし、その労力と収入面から竹細工を生業にすることは難しく、後継者が育たないのが現状である。そこで、障害のある人の働く場として竹細工を行うことに活路を見出し、2017年4月、就労継続支援事業所ワークプレイス ハイホーを立ち上げた。

ハイホーでは、竹細工の技術取得を希望する方には、技術習得のためのプログラムを準備している。また、竹の作業を望まない(不向きな)方の場合、その人の得意なことを探し、作業してもらっている。得意なことは、刺繍だったり絵画だったり、人それぞれなので、作業の種類はどんどん増えていく。出来上がる作品は、張り子のダルマや福人形、竹細工と組合せたバッグなどなど。伝統的な竹細工と自由な表現の融合には、新しい伝統工芸の可能性がある。昔ながらのものづくりは、頭で考え、手足を使い、つくる喜びを五感全体で感じることができる。これは、現代社会のなかで薄れていっている営みのひとつかもしれない。仕事の分業化が進み、より専門性を持つことで、働くこと自体の行為から、達成感を感じられる仕事が減ってきている気がする。そんな社会の仕組みから、昔ながらのものづくりの良さを見直す必要性を感じている。

竹工芸の発展には、後継者育成のほかに竹山整備の問題もある。竹林面積日本一でありながら、実は、竹林が放置された竹やぶが多い。竹やぶの竹は、擦れて傷つき、竹細工には使えない。伝統工芸を残していくためには環境の整備も課題である。

最後に余談ではあるが、最近、現金支払いを受け付けない店舗など、キャッシュレス社会へ移行の動きがある。スマートフォンもろくに扱えない私は、時代についていけるのかと不安になる。同じキャッシュレスなら、個人がつくり出したものや、技術、知識などの財産同士をキャッシュを介さず交換できる場所とシステムを実現できないかと考える。

例えば、米づくりをしている人がいたら、収穫した米を持ち込む、その代わりにハイホーがつくった竹ざるなど、必要とするものを持ち帰る。その繰り返しで、生活に必要なものがいろいろと揃ってくる。それぞれの得意なことでつくったものを、ほかのものに交換できる場所である。交換するのは、ものだけでなく、技術や知識・情報などでも構わない。これには、人と人のつながりが大切であり、コミュニティの一端をハイホーが担えないかと思ったりもする。

引地 一郎(ひきち・いちろう)

ワークプレイス ハイホー 管理者。前職は、社会福祉法人太陽会しょうぶ学園の職員。しょうぶ学園で、福祉・芸術を学んだ後、自ら福祉施設を立ち上げる。鹿児島市竹工芸振興組合に所属。

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