Column
2021.05.01 (sat)
文・川﨑富美(プロダクトデザイナー)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第八弾は、プロダクトデザイナーの川﨑さん。最近ある理由で絵を描きはじめたという川﨑さんが、福祉施設との協働を通して見出していったものとはーー。
最近私は絵を描いている。鉛筆で他人のポートレートを模写する。もともとの習慣ではない。私は切実に「それをしないでは居られなかった」。きっかけは明確で、今年の初めに14年一緒に暮らした猫を亡くした。喪失感のなかふと、たまらなく描きたいと思った。私はなぜ、誰に頼まれるでも見せるでもなく、黙々と絵を描くのだろう。客観的に見て滑稽ですらあるけれど、描くことで確かに心は癒やされていた。
「それをしないでは居られない人」がいる。
鳥取市の就労継続支援B型事業所「アートスペースからふる」で、所属するアーティストの作品をもとにした商品づくりを手伝っている。作品をシルクスクリーンの版にして、てぬぐいやTシャツの上に好き勝手にプリントしてもらう。モチーフとなる彼らの作品にはいつでも度肝を抜かれ、私は畏敬の念を抱く。他者からの評価に興味はなく、「アートしないでは居られない」ように見える。サポートするスタッフの方々は、アーティストの性質に合わせ手を替え品を替え、のびのびと表現ができる手法を根気よくマッチングしていく。しっくりきた画材を前にした彼らは、自ら集中して作品を創り上げる。私はずっと、彼らは特別なのだと思っていた。けれど私が描かないでは居られなかった衝動は同じだと気づいた。アート、音楽、言葉を綴ること、何かを集めること……「それ」は千差万別で、人それぞれに理由もなく「しないでは居られず」、「それをする」ことで満たされ癒されるのだろう。
全国の伝統工芸や郷土玩具の工房を取材して歩いたことがある。使われる材料は、土や繊維、木などの天然素材が基本で、素材に触れていること自体が気持良い、だから毎日続けられるのだと言う職人がいた。原始的なものづくりとも言える伝統工芸は、人間の根元的な創作の欲求と親和性が高いのではないか。「NEW TRADITIONAL」、伝統工芸と福祉の掛け合わせは、古くて新しい。
衣食住が足りたこれからの時代、心の充足が当然の課題となる。ジェンダー、障害の有無、居住地など大雑把な枠組みに押込まれることなく、みんな違うことを認め合う風潮が色濃くなっている。個性こそが価値になる。それをしたいけれど、自力でできない人はサポートを得る権利がある。誰かが創ったものを愛でることを悦びとする人のために、つなげる役割は我々デザイナーが担える。誰もが心の欲求に素直に向き合うことができ、自由な創造が世界に溢れますように。
プロダクトデザイナー。1979年鳥取市生まれ。2007〜2017年無印良品の商品企画、デザインを担当。2017年末、Uターンし開業。鳥取大学非常勤講師。
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2023.04.28 (fri)
文:水上明彦(さふらん生活園園長)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第十二弾は、愛知県名古屋市の福祉施設・さふらん生活園園長の水上明彦さん。デザイナーとの協働によるラグマット製作から見えてきた、人の手を感じられるものづくりとは——。
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2023.04.28 (fri)
文:森野彰人(京都市立芸術大学工芸科陶磁器専攻教授)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第十一弾は、京都市立芸術大学工芸科陶磁器専攻教授の森野彰人さん。福祉と伝統工芸のものづくりに芸術大学が関わることを通して、「藝術」がもつ本来の意味について考えます。
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2022.05.30 (mon)
文・山崎伸吾(ディレクター)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第十弾は、伝統工芸の技術やありようを、多彩なプロジェクト・企画を通し発信するディレクターの山崎伸吾さん。近年の「物」への社会意識に対する、ものづくりのアプローチとはーー。
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2022.05.30 (mon)
文・山根大樹(NPO法人おりもんや)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第九弾は、障害のある人たちと、織物を通して協働するNPO法人おりもんやの山根さん。日々の活動を振り返りながら、伝統の織物づくりから見えてきた、現代における「仕事」のあり方について考えます。
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2021.05.01 (sat)
文・引地一郎(ワークプレイス ハイホー 管理者)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第七弾は、鹿児島の福祉施設「ワークプレイス ハイホー」の引地さん。地域の素材や文化、技術に目を向け、障害のある人たちの得意を生かすものづくりとはーー。
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2021.02.01 (wed)
文・川崎和也(Synflux主宰/スペキュラティヴ・ファッションデザイナー)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第四弾は、先端技術や資源循環の応用を通した衣服のあり方を模索する、スペキュラティヴデザイン・ラボ・Synflux主宰の川崎さん。デザイン研究者が実践するファッションと工芸の未来に寄与する試みとはーー。
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2021.02.01 (wed)
文・井上愛(NPO法人motif代表)
さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第三弾は、愛知・名古屋を拠点に、福祉施設と地域のものづくりを結んできた、NPO法人ひょうたんカフェの井上さん。福祉×伝統工芸の実践者が語るものづくりの現場とはーー。
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