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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Column

2022.05.30 (mon)

ニュートラをさがして
工芸がもつ確かさによって、未来が更新されていく

文・山崎伸吾(ディレクター)

photo: Masuhiro Machida

さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第十弾は、伝統工芸の技術やありようを、多彩なプロジェクト・企画を通し発信するディレクターの山崎伸吾さん。近年の「物」への社会意識に対する、ものづくりのアプローチとはーー。

「つくる=捨てる」
京都市内から高速に乗って北に1時間ほどの山間地域「園部」に、伝統工芸を学ぶ学校がある。僕は年に一度担当させてもらっている講義で、日本全国から職人になってものづくりをするために集まった学生に「つくることは捨てることだよ」と話している。
欧米における主にファッションを中心とした大量廃棄の現実を伝え、彼ら自身の生活を振り返ってもらい、自分の暮らしのなかにどれくらいの「捨てる」があるかをイメージし、これから彼らがはじめるものづくりで代用できるものはないかと問いかけている。

この10年、東日本大震災と原発事故後に見られた、地域や個人というレベルでライフスタイルを見つめ直す小さな生活革命とも呼ぶべき実践や、欧米を中心とした地球環境への警鐘を鳴らすような活動など、それまでの100年へのパラダイムシフトとも言うべき社会意識が生まれている。
産業を生み出した時代を経て、物をつくる/買うことへのイメージがネガティブな感覚をもつ時代になっているのは間違いない。

このコロナ禍も、さまざまな事象を見つめ直すきっかけをつくったことに違いはない。移動や流通、人が集まったり交流したりすることが憚られるようにもなった。また、そこに見えてきた大きな格差は、貧困やジェンダーなど、豊かそうに見えた時代のなかで埋もれていた課題を顕在化することとなった。

そんな、時代が求める変革のなかで向けられる工芸へのまなざしに対して、職人たちもまた、答え探しに迷いながらつくることで応えようとしている。

2021年、「SHOKUNIN pass/path」という展覧会を、開化堂の八木隆裕さん、中川木工芸の中川周士さんという2人の職人をキュレーターに迎え開催した。代々受け継ぐことで醸成される思考や感覚を、手から手へとつないできた「職人」という仕事を、5つの工房のものづくりによるインスタレーション形式で展示するものだ。本展では、職人たち自身が、自分たちのものづくりを見つめ直し、多くの人たちに見て想像してもらうために展示をつくった。その過程を現場で共有していると、普段とは違った思考の反芻と、その場で語られる多くの言葉によって、職人たち自身もアップデートされていくのがよくわかった。

展覧会に合わせて制作した新聞には、各職人への6万字におよぶインタビューを掲載。そのなかでは、作家的な思考でつくられるもの、産業的に量産されるもの、必要とされカスタムメイドされるものについて語られる。たとえば、時代の需要に合わせて柔軟にものづくりができたのは、家族や工房といった最小単位のコミュニティ形成と、他者の想いを聞き入れる寛容性、手しごとの揺らぎを高い技術で自然や人の五感に呼応させてきた独自の感覚値があったからなど、職人それぞれが実践し、探求してきたことが書かれている。

147年続く開化堂は、金属製の茶筒を手作業でつくっている。100年以上まったく同じものをつくり続け、それを守っていくのは「50、60年前の茶筒を修理してほしい」という依頼に応えるため。また、同じ技術を保つ目的で同じものをつくり続けるのではなく、茶筒以外の多様なものづくりにも応え、さらに技術を高めている。そんな開化堂の八木さんは、いまあるものでしかものづくりができなくなる世の中を仮定し、そんな時代でも独自の技術を守るにはどうすればいいかを考え、そのアンサーとして、機械生産されたさまざまな缶を解体し、新しい缶へつくり直す実験を続けている。

photo: Masuhiro Machida

中川木工芸の中川さんは「ものづくりを暮らしに戻したい」と話す。木桶は円形に整えられた木のパーツを「タガ」によって組み合わせて形づくられている。その構造によって、傷みが生じたパーツを取り替えて、大切に使い続けることができる。新しいものを買わずとも、修理し続けることで、つくり手と使い手の持続可能な関係性が育まれ、人より長生きするものづくりを生むことができるのだ。そうした職人たちの小さな、でも確かな実践は、ものづくりを未来へと更新していると実感できる。

photo: Masuhiro Machida

「工芸は未来を想像できているか?」という問いを、僕自身や職人たちに投げかけることがある。人がどう未来を思い描くかによって、未来は創造される。工芸が持つ確かさによってさまざまなレベルでのものづくりが更新できるのであれば、生み出される物は社会のなかで必要とされ、歓迎されるべきものでなければならない。

暮らしや文化、感性や美意識を支え、形づくってきた工芸は、社会が想定できなかった出来事によって生じた歪みへの答えを、つくることを通じて未来に投げかけているのだと。

山崎 伸吾(やまさき・しんご)

岡山県倉敷市生まれ。京都伝統産業ミュージアムチーフディレクター、KYOTO KOUGEI WEEK ディレクター、京都精華大学伝統産業イノベーションセンター 特別研究員。京都を拠点に、音楽・美術・工芸・デザインの分野で多様な人たちと協働しさまざまなプロジェクトを手がける。地域に根ざしたものづくりに強い関心をもち、主に伝統工芸の分野でつくり手と使い手の接点が生まれる企画を行っている。
https://kmtc.jp/

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