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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Column

2021.02.01 (wed)

ニュートラをさがして
手と機械、情報ネットワークが織りなすクラフトの未来

文・川崎和也(Synflux主宰/スペキュラティヴ・ファッションデザイナー)

さまざまなものづくりの実践者が“NEW TRADITIONAL”を綴る「ニュートラをさがして」。第四弾は、先端技術や資源循環の応用を通した衣服のあり方を模索する、スペキュラティヴデザイン・ラボ・Synflux主宰の川崎さん。デザイン研究者が実践するファッションと工芸の未来に寄与する試みとはーー。

情報技術が私たちにとってもはや当たり前になったいまもなお、服づくりの現場におけるデジタル化は、正直まだまだ課題だらけである。人工知能の応用例なんかをみてみても、「ある人はこんな服が欲しいらしい」といった一見確からしい需要を予測することで、安いものをたくさん売ることに貢献しようとする取り組みがほとんどだ。つくり手や使い手が可能性を実感できるような取り組みはまだまだ少ない。

ファッションと工芸の未来に本質的に寄与するような、面白い実践はできないものか。そんな想いを胸に抱きつつ、僕が主宰するスペキュラティヴ・ファッションラボSynfluxと東京のファッションブランドHATRAと共同で立ち上げたのが、デジタルニットウェア・シリーズの「Synthetic Feather」だ。

Courtesy of HATRA

Courtesy of HATRA

服を彩る異形の柄たちは、人工知能によって生成された架空の鳥の文様だ。Generative adversarial networks (敵対的生成ネットワーク)と呼ばれる機械学習のアルゴリズムによって、インターネット上に漂う200万もの無数の動物や鳥のイメージが混ざり合い、架空の生き物「キメラ」のデータが生成される。

機械学習から生み出された9種の鮮やかな羽毛柄は、共通の6原色の糸、同じ素材、同じ機材から編み立てられている。工場の職人さんやニットメイカーのみなさん、デザイナーの長見佳祐さんらとの連携によって、複雑な配色をソフトウェア上で効率よく分解し、限りなく糸の無駄が出ないように生産することができる。

ファッションと工芸は、情報技術とよりよい関係性を切り結び、その伝統を未来へと継承することは可能だろうか。デジタルテクノロジーもまた、計算可能なものごとの効率化に応用されるだけではなく、人々の創造性を拡張するための手段として、その力を発揮することができるだろうか。

工場に通うようになって、デジタルとクラフトの融合について、はじめて手触りを持って思索できるようになった。東京都墨田区にある工場にお邪魔するといつも、熟練の職人が、古いブラウン管のパソコンの前で黙々と機械編みのデータをつくっている。手のひらで操作する懐かしのボールマウスを操りながら、手際よくデータを確認し、機械に頭を突っ込んで針の調子を整えている。

僕はその姿を見るのが大好きになった。長年かけて磨かれた手技は、ときに機械と調和し、一体になっているようにも見える。パソコンやマウスが古いか新しいか、デジタルかアナログかに関わらず、物質と情報の境界を超えて、工房で編まれる服たちは、機械学習と工芸による膨大な知識と情報で溢れている。手と機械、そして情報ネットワークのつながりが織りなす、複雑で、豊潤で、洗練されたデジタル・クラフトの実験に、ニュートラの未来を感じている。

Courtesy of HATRA

川崎 和也(かわさき・かずや)

スペキュラティヴデザイン・ラボ・Synfluxを主宰し、先端技術や資源循環の応用を通して衣服のつくり方や買い方を更新する取り組みを展開している。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、現在同博士課程。編著書に『SPECULATIONS 人間中心主義のデザインをこえて』(BNN、2019)。

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