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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Travelogue

2020.10 - 12

土地の歴史・文化・素材に触れ、
NEW TRADITIONALを見出す

文・森下静香(Good Job! センター香芝)

photo: Hiroshi Kondo

2020年10月から12月にかけ、各地のつくり手を訪ねるリサーチツアーを実施。たんぽぽの家のスタッフや福祉施設に携わるアーティストとともに、ものづくりの現場を訪ねた。産地の文化や素材に触れるなかで感じたことを、Good Job! センター香芝の森下静香が綴っていく。

※リサーチツアーは、日本財団の助成により実施しました
supported by THE NIPPON FOUNDATION

鯉江明さんのアトリエ(愛知県常滑市)、水野製陶園ラボ(愛知県常滑市)

photo: Natsumi Kinugasa

ツアーコーディネートをお願いしたデザイナーの高橋孝治さんとホテルで待ち合わせ、最初に案内してもらったのはホテルの屋上から見える常滑のまち。なだらかな丘の反対側にはボートレース場、その向こうは海。ここでつくられた陶製品が船で運ばれ各地に渡ったことを教えてもらい、これから2日かけて巡る土地の奥行きを体感したような気持ちになる。

常滑は、1,000年続く日本六古窯のひとつ「常滑焼」の産地であり、高度経済成長期には土管の生産で栄え、現在はタイルや衛生陶器の生産拠点として知られる。高橋さんにはメーカーから卸問屋、作家の工房まで幅広く案内いただいた。なかでも印象に残るのは、天竺にある陶芸家・鯉江明さんのアトリエ、そして建築家の水野太史さんが運営する建築陶器メーカー水野製陶園のラボだ。車窓の外のセラミック工場や土・石が積まれた資材置き場を眺めながら移動する。常滑は工房やメーカーが近い範囲に点在するまちだ。

竹林に囲まれた鯉江さんのアトリエに到着し、庭に案内してもらう。促されるまま雑草を押し分けると、足元には剥き出しになった粘土質の地層がある。これが常滑の、生の土の姿だ。

「素材を知り尽くしている人が形をつくる」、高橋さんは鯉江さんの作品を見ながら言う。アトリエには、焼成前のさまざまな器かが並んでいた。この後、父・良二さんと築いた薪窯で焼き上げるそうだ。鯉江さんは地域の人が裸足で土を踏み、感触を楽しむワークショップなども行っている。自然のなかの土も端正な皿になる土も同じであることが新鮮に思えた。

翌日は水野製陶園へ。広大な敷地にトタンの工場棟や陶製ブロック造りの事務所が立ち並んでいる。創業は1947年。水野さんいわく、戦後、高度経済成長期の建設ラッシュによる最盛期を経て工業化しながらも、“やきもの”の風合いにこだわりながら、機能的なレンガ・タイルを生み出してきた。2014年に始動したラボでは、そのやきものについての基礎技術の高さに可能性を見出し、オーダーメイドの陶製品を手がけている。棚や壁にはタイルの色見本が並び、豊かな色合いや光沢、釉薬が織りなす独特の模様が一片一片に浮かんでいる。手のひらに収まるものから大きな空間をつくること。障害のある人とそんな挑戦もできるのかもしれないとわくわくした。

photo: Natsumi Kinugasa

尾州のカレント新見本工場(愛知県一宮市)

photo: Hiroshi Kondo

12月上旬、織物の一大産地・尾州へ。コーディネーターは、長年、織物と障害のある人の仕事をつなぐ活動に携わるNPO法人motifの井上愛さん。数週間前、「とにかく本気の人たちが集まるサークルがある」と、電話で教えてくれたのが尾州のカレントだった。聞くと、メンバーは地元繊維企業の若手社員。週に一度集っては、産地の魅力発信のためのアイデアを交換し、ものづくりに挑んでいるという。

名古屋から車で1時間ほどかけて一宮へ。カレントの拠点・新見本工場のある木玉毛織株式会社に向かう。尾州には、産地の最盛期に建てられたノコギリ屋根の機屋が至るところにあり、カレントの拠点も木玉毛織の機屋跡を間借りした形だ。場内には生地見本や製品、ワークスペースが整い、ショールームとも部室とも言えるような雰囲気が漂っている。

「日本に洋服が普及して100年。いまが一番の危機かもしれない」と代表の彦坂雄大さん。新型コロナウイルス(COVID-19)は繊維産業にも大きな影響を与えている。それでも「本当に必要な服の生産や流通のあり方を考えるチャンス」と語る姿には、産地の未来を担う覚悟が滲んだ。

彼らの活動軸は、“まずは触れてもらう”ことにある。なかでも「びしゅうの◯◯」は、季節や場面に合わせてメンバーが上質な布を選び、協力工場で縫製することで日常的に着られる服を提供する企画。このとき見せてもらったのは、ウールやジャカード織りのズボン。彦坂さんに生地の特徴をうかがいながら、気づけば、その場にいる全員が注文していた。

お蚕さんプロジェクト(奈良県香芝市)

帰路、車窓から見える山並みを眺めながら、ものづくりの根にある素材を育む産地のあり方や形にするつくり手のことを振り返った。

Good Job! センター香芝(以下、GJ!センター)がこの3年取り組む活動に「お蚕さんプロジェクト」がある。GJ!センターを利用する障害のある人たちとともに桑を植え、お蚕さんを育てている。作業室を清め、日本在来種の小石丸を迎え入れるのは6月。はじめはケシの実のように小さいお蚕さんが桑の葉を食べ、日に日に大きくなるのは不思議で愛おしい。毎日葉をあげ、その成長をみんなで見守った。

養蚕はお蚕さんの命をいただく営みでもある。自分たちの手でさなぎの入った繭を煮て、糸をひく。お蚕さんの供養のために、京都の蚕ノ社(木嶋神社)や葛城市の棚機神社へお参りに行ったことや、お蚕さんのうたをつくったこともあった。思えばこうした歩みも、私たち自身の自然との関わり、広くは生き方をとらえ直す旅のようなものかもしれない。

各地で出会った実践者の手や態度から、自分たちの足元にこそ、ものをつくるきっかけや伝統を育む地盤があると気づかされる。今後も、地域にある素材や歴史、文化をものづくりに生かし、現代の暮らしへとどうやってつないでいくかを考えていきたい。

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