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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Travelogue

2021.07 - 2022.02

人と地域をつなぐものづくりから、
NEW TRADITIONALの未来を考える

文・岡部太郎(一般財団法人たんぽぽの家)

photo: Natsumi Kinugasa

土地に根づくものづくりの現在を探り、伝統工芸の技術や素材、歴史・文化について学ぶため、スタディツアーとワークショップを実施。案内人や講師とともに、土地固有の素材やものをつくる仕組みに触れるなかで感じ、考えたことを一般財団法人たんぽぽの家・岡部太郎が振り返っていく。

森田一弥さんとの土壁巡り(京都府京都市)

3年にわたり各地の伝統のものづくりや素材、福祉の現場を訪ねてきた。2年目となる2020年度、リサーチツアーに赴いた常滑のまさに“滑らか”な土の上で、本当に滑って転びかけたことが、いまも身体の記憶として残っている。今年度は、平城京の土を使って布を染め、紙を漉く創作ワークショップも実施。子どもや障害のある人とともに、土に触れることを通して、歴史と自分自身が直結する瞬間を体感した。人がものをつくり、素材を加工して何かにしていくという原始的な行為を、肌で感じることができた機会だった。

また、土壁巡りも印象に残っている。建築家の森田一弥さんと大徳寺敷地内のさまざまな壁を見た。鉄を加えることによって浮かぶ点々を闇のなかの蛍に例えた「蛍壁」、あえて土のつなぎ材料である藁を壁に浮かべる粋。茶の湯の思想に重なる素朴さと美の調和から、民衆の生活が階級を越えてリンクしている様子を見ることができた。

photo: Natsumi Kinugasa

茶室の外には土壁が連なる。森田さんは、お寺や家など、複雑な構造に関する建築は資金や職人の専門性、あるいは高度な道具が必要だが、土塀や土蔵は民衆がつくっていたのではないかと言う。手弁当で寄り集まって、地域のシンボルとなる寺や建物に関わる。つくっている壁は、内と外を隔てるものだが、実は壁づくりに関わることで、wall(壁)はbridge(橋)の機能も果たしたのではないか。土は扱いやすい。特殊な道具が要らず、人と時間さえあればものをつくることができる。そして、つくることに参加すれば、直すこともできる。土という素材が人をつなぎ、一緒につくったものは、結果として大切にされ、残り続けていく。

何かをつくるときに、何に価値を置くか。土壁づくりで一番かかったコストは「時間」だ。自然の力も利用しながら時間をかけたからこそ出来上がった。人が時間をかけてものをつくることは、まさに福祉の得意分野と言える。みんなでゆっくりとつくること。この時代において、ものづくりの意味をあらためて考えるヒントになるだろう。

高橋利明さんとのものづくりスタディツアー(徳島県徳島市、上勝町、美馬市)

12月末、「伝統工芸と福祉を考えるものづくりスタディツアー」(助成:日本財団)で、2日をかけて徳島県内を巡った。案内人の高橋利明さんは建築家として活動するかたわら、「−みんなの複合文化市庭−うだつ上がる」という施設を運営したり、地域の多様なものづくり、文化活動に関わったりしている。大阪出身、とにかくしゃべるのが大好きで、移動の車中は雑多な話で盛り上がった。

ツアーの最初に訪れた富永ジョイナーでは、4代目の指物師(さしものし)富永啓司さんから、手がけた作品を見せていただいた。流れるような曲線を描く木枠の姿見や、釘目のない組み木細工などを目にするだけで、参加者からは感嘆の声が上がる。聞くと、もともと船大工だった祖先が、戦争中、水に強い弾薬箱などをつくった歴史を経て、指物の生業ははじまったという。かつて全国屈指の建具産地だった徳島県。阿波の指物師を標榜する富永さんに、ものづくりへのプライドを感じた。もの自体の魅力ではなく、人の心が動くこと、想いが大事だと語る姿もとても印象深かった。

また、ものをつくる現場にとどまらず、ものを捨てる現場にも足を運んだ。ゼロ・ウェイストセンターでは、まちの人たちがゴミを持ち込み、可能な限り分別できる仕組みを生み出し運用している。つくる、使うことの先にある、ものの行き先をイメージすることが大切なのだと実感させられた。

阿波指物、阿波紙、阿波藍と、地域のものづくりの現場を訪ねながら、歴史のなかで残ってきたものは、素材や工法、それによる産物だけでなく、人の想いだということを感じた。コロナ禍だが、徳島の夜はどこもにぎわっていた。まだ続くであろう先行き不安な生活のなか、地元でものづくりに関わる人たちの力強い言葉を胸に、これからもさまざな人や地域とつながっていきたいと思った。

旅を終えて

プロジェクトを進めると同時に、各地の障害のある人や家族、支援する福祉施設の職員と交流する機会も少しずつ増え、私たちは福祉と暮らし、仕事の可能性を広げるすべを探り続けてきた。私自身、障害のある人のアート活動、表現活動の支援に長年携わってきた。そして現在は、障害のある人の創造性を仕事につなげたり、地域の人たちの接点をつくり、居場所や交流の場所づくりの実験・実践を続けたりしている。

このプロジェクトに関わるなかで感じていることは、ものづくりは人間の根源的な行為であるとともに、さまざまな人とのつながりを生むということ。収入を得て生活を安定させるだけでなく、技術や専門性をもち、社会のなかでの役割を実感することができる。私たちがイメージする福祉は、障害者福祉、高齢者福祉といったカテゴライズされたサービスではなく、生きる上で必要なつながりや支え合いのような、もっと大きな意味を指すのではないかとスタッフのひとりが言った。その実現のためには、個人の才能や技術を生かすだけでなく、人が集い、個々が実感をもって創造ができる場所、それぞれが尊厳をもって関わり合える場所が必要だ。ものづくりは人、もの、地域をつなげる。足下から未来まで、見えないブリッジをかけながら、これからもこの旅は続いていくのだろう。

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