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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Travelogue

2019.06 - 2020.03

福祉と伝統工芸の現場をめぐり
NEW TRADITIONALを見出す

文・藤井克英(Good Job! センター香芝)

photo: Yoshihide Fujii

2019年6月から2020年3月の期間、全国各地の工房や施設を巡り、聞き取りを実施した。Good Job ! センター香芝(以下、GJ!センター)にて郷土玩具や伝統工芸と3Dプリンタの技法を組み合わせたものづくりを行う藤井克英が、その道中で考えたこと、感じたことを記していく。

僕たちは、これまで障害のある人の新しい仕事づくりを試行してきた。GJ!センターでは、デジタル工作機器の技術と昔ながらの手仕事を障害のある人の表現とつなぎ、新しい働きへと展開。また、障害のある人の作品を、知的財産権の活用を通して社会へと広げていく試みも行っている。
しかし、つくるものの良さを伝え、暮らしを豊かにするものづくりのあり方を考えるには、その周囲へも目を向ける必要がある。
「これからの新しい伝統工芸とは、愛と祈りのあるものだ」。たんぽぽの家の理事長・播磨靖夫の言葉を思い出しながら、全国のものづくりの実践者に話を聞く旅がはじまった。

NOTA_SHOP(滋賀県甲賀市)

photo: Taro Okabe

「ニュートラとはなにか」を議論する上で、UMA / design farmの原田祐馬さんとMUESUM の多田智美さんに、一緒に考えてくれる実践者を紹介いただいた。そのひとりがNOTA & designの加藤駿介さんだ。6月頭、加藤さんの工房兼店舗兼ギャラリーのある信楽へと車を走らせた。
信楽は、1,000年続くやきものの産地=六古窯のひとつ。古琵琶湖層の豊かな土を用いた信楽焼は、近隣の京都や大阪といった都市文化と密接で、現在も日用品としてのやきものを制作している。
田んぼに囲まれた信楽高原鐵道・勅旨駅前の踏切をわたって、小路を進んでいくとNOTAの工房と店舗兼ギャラリーの平家が見えてくる。もともと製陶工場だった建物を改築した広大な空間だ。
店舗には、NOTAのプロダクトはもちろん、国内外の作家による作品、日用品、古道具、オブジェなどが混在しており、それらが並んでいる状況は目にも楽しい。「ひとつの器を見せるときに、周囲に置くものとの関係性や一歩引いて見たときの空間性を意識してレイアウトしています」と加藤さん。選ばれた商品の秀逸さもさることながら、ものともの、ものと人、ものと土地の関係を見出し、その良さ・質を伝える手法にハッとさせられた。

photo: Taro Okabe

クラフト工房 La Mano(東京都町田市)

photo: Yoshihide Fujii

8月の焼けるような日差しのなか、天然素材を用いた染織品の制作を行うLa Manoの工房へ。小さなスロープを上がっていくと、工房の入り口にある藍染の暖簾が風でたなびいているのが見える。藍染液の独特な匂いが漂う室内には、障害のあるつくり手とそれを支える地域のボランティア、施設スタッフが作業に励んでいた。
La Mano は、染織と刺繍を主に日用品の制作をしている。「注文を受けてから、その人の暮らしの様式に合わせてサイズ、カラーなどをコーディネイトできるか検討しています」と工房長・高野さん。創意工夫を都度盛り込み、次の仕事へとつないでいるという。また、市販の素材ではなく、工房裏の山で染料となる植物を栽培し、それを使うなど、ものをつくる手前にある素材や仕組みから自分たちに引き寄せていく姿勢にも、La Manoのものづくりの豊かさを感じられる。
“つくる” を突き詰めて考えると、人や自然を分け隔てない循環が見えてくる。その全体像を見ながら一貫したものづくりをするか、役割を決めて分業するか。僕たちはどう考えるのがよいだろう。

photo: Yoshihide Fujii

𠮷勝制作所(山形県西村山郡大江町)、橋本広司民芸(福島県郡山市)

photo: Yoshihide Fujii

2020 年1月と3月、デザイナー𠮷田勝信さんとの協働のため東北地方を訪れ、合わせて各地の工房などを巡った。ここで、大きく心揺さぶられる出会いがあった。ひとつは𠮷田さんの住居兼工房=𠮷勝制作所、もうひとつは橋本広司民芸である。
古い日本家屋の居間や応接間には𠮷田さんが収集してきた民具や装飾品などが並ぶ。納屋には染織に使うための樹皮が大量に干されており、その光景に尋常ならざるものを感じた。𠮷田さん自家製の発酵食品をあてに話を聞いていくなか「山に入って自然素材を採取することと、グラフィックデザインは地続き」という言葉に納得。山のものも、人のものも分け隔てなくある生々しさに、僕はあてられていたのだ。
三春駒と三春張子人形の発祥地として、江戸時代から続く集落にある橋本広司民芸でも同様の衝撃を受けた。そこはデコ(=木偶人形)屋敷と呼ばれ、現在も郷土民芸品を制作・販売している。橋本さんのことは、「東北の酒と玩具MUTO」(秋田)を訪れたときに紹介された。
「時代に合わせて、そこらへんで手に入るものでつくっている」と橋本さん。うどん粉を糊がわりにしたり、顔料と膠の代替としてアクリル絵の具を使ったり。「先代がつくってきた張子を見ていると、代々の人が考え工夫し、継がれてきた知恵が見て取れる」。室内を見渡すと、代々制作してきた品々や大きな天狗面、大人でも抱えきれないサイズの達磨などが置かれ、仏壇や囲炉裏、ご先祖の写真なども同じ空間にある。
僕が張子やお面の制作方法を聞いていると、ひょっとこ面の話に。橋本さんの面は演者の豊かな表情がわかるように、能面と同じく小さめにつくられ、口元がくり抜かれている。「ちょっとやってみるか」と、橋本さんはお面をつけて目の前で踊ってくれた。五穀豊穣・健康祈願がこもった踊りには、祖先や自然への感謝もある。仕事も生活も祈りも祭りさえも一緒くたになって、目の前で踊る橋本さんに、僕は心を鷲掴みにされた。
かつてお百姓が農閑期に、身近な素材で日用品や玩具を手づくりした、生活と仕事が地続きにある営みの形、ものづくりの循環。現代において、障害のある人やつくり手とともに、どんな形を見出せるだろうか。ニュートラの旅はつづく。

photo: Yoshihide Fujii

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2020.10 - 12

土地の歴史・文化・素材に触れ、
NEW TRADITIONALを見出す

文・森下静香(Good Job! センター香芝)

2020年10月から12月にかけ、各地のつくり手を訪ねるリサーチツアーを実施。たんぽぽの家のスタッフや福祉施設に携わるアーティストとともに、ものづくりの現場を訪ねた。産地の文化や素材に触れるなかで感じたことを、Good Job! センター香芝の森下静香が綴っていく。

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