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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Interview

2022.01.27 (wed)

過去も未来も、
美しいものが好きなんです

川﨑 富美

文・永江大(MUESUM)
収録:Am’s ギャラリースペース(鳥取)

photo: Kazutoshi Fujita

インハウスデザイナーとして商品企画に携わり、2017年より地元・鳥取へ移住したデザイナー・川﨑富美。手仕事や民藝のリサーチ、福祉施設との協働、商業施設のディレクションなど幅広く手がけている。川﨑が考える、もの、ものづくりについて話を聞いた。

気持ちのいい仕事をすること

—— 本展では、因州和紙を素材として選ばれていましたね。どうして和紙だったんでしょうか?

2014年、鳥取県東部で初代から86年間、「猩々面」「青の鼻たれ面」「ぬけ面」など、なんとも言えない魅力をもつ張り子を手がけていた柳屋さんが引退されることになったんですね。それで、その後、私も鳥取に引っ越ししてきて、これからどんな素材を扱おうかと悩んで。やきものや木工、布などにも惹かれたんですが、設備・機材が必要になりますよね。そして、やきもの=石をつくるようなものだから、つくったものがずっと残ってしまう。でも紙は軽いし、かさばらない。水に溶けば素材に戻せるのも魅力的だなと思って。平面だけでなく、張り子など立体をつくることもできる。だから、私がこの場所で生きて、ものづくりに携わっていくなら、紙という素材を扱いたいと考えるようになりました。

—— 想定外の理由で驚きました(笑)。

張り子の場合、いらなくなったら潰せばいいし、購入した人も可燃物として処分できる。捨てることが難しい日用品も多いなか、私がつくるものはそれくらいの存在感がちょうどいいなと思うんですよね。あと、張り子って、役に立たないでしょ? ずっと工業製品をデザインしてきて、人の役に立つ道具は世の中に充分あるから、もうつくりたくないなと思って(笑)。張り子って、「なんかかわいいな」「なんとなく、ありがたい」とか、必要性がなくても欲しくなっちゃう感覚がありますよね。

—— なぜか惹かれてしまう感覚、わかります。

最近、そういう類のものに惹かれますね。柳屋さんが引退すると知って、ご健在のうちにその技術を継ぎたいと思い、ここ数年、柳屋さんに張り子づくりを習っています。柳屋さんは、主に明治・大正期の古い和紙を使って張り子をつくっていて、お師匠さんは「昔の和紙は繊維が長くて、すごくきれいに仕上がる」と教えてくれました。材料がすべて国産で、質がいいんです。張り子もさまざまなつくり方があるのですが、私は、なるべく先代に近い手法でつくりたいので、古道具屋さんで古い和紙を調達して、布糊や膠(にかわ)、泥絵の具、胡粉を使っていますね。もちろん、手軽に入手できる素材で代用したり、ポスターカラーのようなもので色をつけることもできるんですけどね。

—— 先代の方法にこだわるのは、なぜでしょう?

私の場合、目的が「張り子をつくること」じゃなくて、「気持ちのいい仕事をすること」なので。布糊って、紙に塗るとき、とにかく手触りがめっちゃ気持ちいいんですよ。だから、つくり手である自分のための選択でもある。そういう考えが前提にあるので、今回展示のお話をいただいたときも、私が目指している「気持ちのいい仕事」をほかの人にも味わってもらえたらいいなと思ったんです。

それが似合うかどうか

—— 福祉施設・アートスペースからふるとの協働は、どのようなきっかけで実現したのでしょう?

鳥取で開業した2018年、あいサポート・アートセンターが主催する「福祉をかえる『アート化』セミナー」で名刺交換をしたのが最初です。翌年、所属アーティストの仕事づくりを目的に「からふるてぬぐい」をつくりたいと、お仕事の相談をいただきました。今回の展示では、型づくりも含め、和紙をつくる工程の大半をからふるさんにお願いしたんです。からふるの副理事長・伊奈真弓さんに素材をお渡しし、そこから各アーティストへ制作を依頼してくれて。伊奈さんをとっても信頼しているので、私の仕事は仕上がってきた作品に対して「もう少し、こうしてみましょうか?」と提案するくらい。なので、今回の展示作品は、すべてからふるさんの仕事!

アーティストの作品をシルクスクリーンの版にし、アーティスト自身が自由にプリントした「からふるてぬぐい」(「和紙という銀河から、届く光」展より) photo: Kazutoshi Fujita

—— 難しかったことはありませんでしたか?

つくり方が苦手だと思う方がいたり、私の試作とは違う結果になったり、うまくいかないこともありましたね。最初は無理かも……と思ったけれど、伊奈さんや因州和紙を手がける中原商店・中原寛治さんの意見を聞いて、少しずつ改善していくことができました。アーティストのみなさんの手つきを観察して、「これは苦手そうだから、この作業をお願いしよう」「こういう作業は難しいけど、こうしたらできるかも」と伊奈さんとも現場で相談しながら制作を進めていきました。

—— 和紙という素材も、からふるさんとのやりとりのなかからハマりそうなものを選んだんですか?

それもあります。私自身は和紙の手触りのよさや美しさを知っていたけれど、そもそも高価なもので、一般的には触れる機会が少ない素材なんですよね。でも、私は作品をつくる際、素材や画材の選び方がすごく大事だと考えていて。アートを見慣れていない人にも作品のよさをわかってもらうために、それなりの格や質が必要なんですね。だから、この機会に高価な紙を使ってもらい、アーティスト自身にも「和紙って、いいな」と感じてほしかった。素材に触れて「やっぱりいいよね」って当たり前に感じられる機会をつくりたい。そんな気持ちがありました。

—— “いい”には、感覚的な気持ちよさ、動機の清らかさ、トレーサビリティも含まれますよね。

和紙屋さんが、原材料から育てて、和紙を生み出す。さらに、その丁寧につくられた和紙が、アーティストの創作へとつながっていくという“いい”もあります。支持体となるキャンバス、作品を飾る額も、それぞれの職人が誇りをもって、絵を生かすためにつくったものを合わせると、“いい”作用が起こる。私は、どんなことでも「似合うかどうか」を大切にしています。部屋のディスプレイを考えるときにも、何人家族で、どういう人が住んでいるかをイメージする。それと同じように、アーティストや作品に似合う画材や額を選び、一番の展示方法で作品を見せてあげたいと思うんですよね。

—— 今回では、どんなところに現れていますか?

従来の因州和紙の展示だと、和紙は平面であることを前提にペイントされることが多いんですね。だけど、私は、和紙は薄っぺらいけれど、立体物ととらえて、少し違う見え方を考えました。展覧会名に「銀河」とつけたのも、紙という馴染みのある素材だけど、想像する以上の奥行きがあるから。観る人に、うんと心を広げて向き合ってもらいたくて。また、1,400年以上前に日本へ伝来した和紙が、いまここにあるという時間軸を、遠い銀河から時間をかけて届く光になぞらえて、「四次元」の視点で見てもらえたら嬉しいなと思います。

粘土をコロコロ丸める仕事が大好きな愛菜さんによる作品《メテオ》(「和紙という銀河から、届く光」展より) photo: Kazutoshi Fujita

いまの感覚にならう

—— さまざまな「ものづくり」に携わるなかで、どんなことが原動力になっていますか?

私が関わる「ものづくり」は、工業製品、福祉施設との協働、郷土玩具の収集やリサーチ、民藝のつくり手への取材など多岐にわたります。一見バラバラに見えるかもしれませんが、すべて「人の営みって面白いな」という気持ちが根っこにある。ものづくりって、人々が毎日の暮らしのなかで積み重ねてきた、文化の蓄積なんですね。それが、民藝の器になることもあれば、障害のある人のアートになることもある。そのアウトプットの違いを比較しながら、楽しんでいますね。

—— 前職での経験が、そうした川﨑さんの視点を養っているのでしょうか。

そうかもしれません。良品計画に在籍していた後半は、永く使われてきた日用品を世界中から探し出し、現代の生活に合わせて少し改良する「FOUND MUJI」という企画を担当していました。先進国・発展途上国を問わず、ものづくりの現場に入り込み、プリミティブなものから超大量生産のものまで、幅広く見てきました。それぞれを比較しながら、自分が手がけたものが店頭に並んだ後、どうなっていくかを想像するような仕事で、そのとき培った視点は、いまも私のなかにありますね。

—— 過去から脈々と続く営みを振り返りながら、現代の暮らしに合ったもののつくり方・あり方を考えていくんですね。

ものって、いまここにあるだけではなく、過去も未来も携えている、と思うんですね。だから、つくる人は、どんな考え・想いでつくるのか、この素材がどこから来ているのか、どうやって朽ちていくのか、考えないといけない。過去も未来も美しいものが好きなんです、私。でも、ものをつくる以上、絶対に「進化」は必要だと考えているんですね。だけど、この「進化」は、最新のテクノロジーや新素材という意味ではなく、「いまの感覚にならう」ということ。物質にまみれる時代を経て、私たちは人間の本質・身体性・感性に目を向けつつあると感じています。「心地よい」など、言語化・数値化しにくい感覚と向き合える時代になってきたようにも思うんですね。

川﨑 富美(かわさき・ふみ)

プロダクトデザイナー。1979年鳥取市生まれ。岡山県立大学デザイン学部卒業。2007~2017年、株式会社良品計画にて無印良品の商品企画・デザイン、Found MUJI・福缶企画などを担当。2017年末、Uターンし開業。アートスペースからふるの商品デザイン、鳥取民藝美術館のビジュアルデザイン、Am’sの店舗デザインなどを手がける。鳥取大学非常勤講師。

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