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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Interview

2020.03.21 (sat) - 22 (sun)

ものをつくる前提を引き受けること
人の表現の地平を眺めること

𠮷田 勝信

文:永江 大(MUESUM)
場所:とんがりビル KUGURU(山形)

photo: Mori Yamashiro

山や森をフィールドに、自然の素材、古くから続く技術を取り入れ、ものづくりを行う𠮷田勝信。手や道具・素材のくせ・質から生まれる、予期せぬ“ 揺らぎ”を内包した表現が特徴だ。山形・大江町を拠点に活動する彼が考える「NEW TRADITIONAL」、新しい伝統工芸・ものをつくる作法について聞く。

ものづくりの手前から、「新しい」を考える

—— 本プロジェクトでは、さまざまな立場の人たちと議論・実践を重ね、「NEW TRADITIONAL」の定義をああでもない、こうでもないと言いながら形づくっています。𠮷田さんとも、いくつかの実践、展覧会をご一緒しましたが、𠮷田さんは「NEW TRADITIONAL」と聞いて、どんなことを考えましたか?

生活・仕事・地縁・風習など、豊かだった人間の営みは近代化によって切り離されてきました。その結果生まれたさまざまな「溝」をデザインやものづくりで埋めることで、これからの生活や仕事について考えるきっかけが生まれます。

これは、僕がディレクターとなった「わたしのニュートラ」展のステートメントの一文です。僕がデザインとして行う多くのことには、「溝」をどう回避するかという問いが通底しています。新しいものづくりを考えるならば、「溝」を埋めたり、飛び越えていったりするような思考がものをつくるなかに組み込まれている必要がある。そうでないと、結局は社会の問題に回収されて「新しい」ものになりません。

—— 𠮷田さんが感じている「溝」とは?

「ワークライフバランス」という言葉を耳にしますが、もともと一体だった生活と仕事が、いまは仕事は仕事、生活は生活と分断されてしまい、その間で折り合いがつかなくなっている。オーガニック食品のお店で働いているけれど、家ではカップラーメンを食べているという矛盾もひとつの折り合いのつかなさですよね。よくあることだと思いますが、いつか「私何しているんだろう?」と壁にぶち当たってしまう。
そのような分断=溝を考えることは、仕事や生活だけでなく、その基盤となる土地や環境を考えることとも結びついていると思うんです。
僕は、2019 年から地元の小さな消防団に入り、団員とともに有事の備えをしています。それは、自分たちで土地を治めていくにはどうすればいいのかという「自治」の視点で地域を見つめるためでもあって。いまの社会や都市がつくられていくにあたって、切り離していかざるをえなかった営み。つまりここにも溝があるわけですが、これを再度引き受けていったときに、現状を打破するヒントがあるといいなくらいの気持ちでやってみています。

photo: Kohei Shikama

—— なるほど。都市の効率性・機能性を重視するあまり、ある種の断絶が生まれてしまった。

そうかもしれません。ほかにも、僕は食材やデザインの素材となるものを採取しに近くの山へよく入っていて。安全性の面から行政から「キノコを食べないでください」と通達があったときに、そこで「食べない」という選択をすると、採取後にどう保存して、どうおいしく食べるかといった食文化そのものが途絶えてしまう。それ自体、人間の営みや文化の否定とも言えます。ここにもひとつの溝が生まれつつあるんですね。
これからの時代を生きる人間として、どうやってその溝を埋めていくか。そして、そういった一つひとつの問題、溝と考えるものを埋めていった先に、どんな状況があるのか。僕はデザイナーですから、ものをつくって試行錯誤しながら、見極めていこうとしています。

“つくる” をトレースし、つくり手の思考を辿る

—— 「溝を埋めていく」という行為は、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。

ひとつは、過去さまざまにものをつくってきた人たちが考えた、つくる仕組み・作法を、僕自身も手を動かしながらトレースすることです。その先に、つくった人たちのコミュニティ、広く社会みたいなものが見えるかもしれない。そういった現代の科学的なものの見方ではない思考に触れることで、新しいものづくりに近づく気がしています。
比較的わかりやすい例を出すと、毎年、山形のタウン情報誌『gatta!』新年号の表紙を担当していますが、2020年は、山形の南部地域にある「キリハライ」という風習をもとにアートワークをつくりました。キリハライとは、農業の風景と縁起物を12枚1組の切り紙にし、年末に家のなかに貼っておく風習です。南三陸や中国にも似たような風習がありますが、キリハライの特徴は、それを毎年貼り重ねていくこと。古くからある家では、とんでもない厚みになっていて、めくっていくと江戸時代まで遡れてしまう(笑)。そういった時間の堆積が物量として可視化されていて、また、文化として現在においても成立しているのも面白い。

photo: Kohei Shikama

—— 風習をトレースしていくことで、その土地が積み重ねてきた文化を見る、ということですね。

そうです。表紙をつくるにあたって、最初はキリハライではなくて、「ネズミ浄土」という民話をモチーフにしようとしていました。この話は、みんなが知るところだと「おむすびころりん」が有名。全国に語り方の違ういろんなバリエーションがあって、山形だったら、助けてくれたネズミの案内で穴に入って、地底のネズミのお屋敷で餅つきをして帰ってくる話が一般的です。海側の地域だとネズミが魚をくれることもあるんだとか。あとは、「お餅」のような、幸福の象徴とされるモチーフが変わったり、ネズミの数が変わったり、ネズミではなくお地蔵さんになったりもしますね。

—— 地域ごとに大事にしていることや規範が違い、それが語りにあらわれているんですね。

山形では、餅つき=幸福の象徴で、僕の家にも臼と杵があるんですが、なにかあって餅つきをするとなったら、近所の人がわらわら集まってきます(笑)。山形出身の友人は「餅をつくよ」と連絡すると、だいたい断らないで手伝ってくれる。餅をつくということの幸福感が民話のなかと地続きに、いまでも山形に息づいているんです。それをわかりやすく縁起物として探したときに、出てきたフォーマットがキリハライでした。ネズミ浄土のモチーフを組み合わせて、グラフィックに落とし込んでいったのが『gatta!』の切り絵ですね。これは、さきほど話した溝を考えていくこと、そしてそれを乗り越えるために手を動かしてトレースしていくことの、わかりやすい事例かなと。

もともとなかった線引きを知る

photo: Kohei Shikama

—— 世界中で、近年さまざまな分断があらわになってきました。もともと社会や生活のなかにあった、ジェンダーや障害といった言葉・状況をとらえ直す機会にもなっています。ものをつくるという視点で、それらをどのように越えていけるでしょうか。

ここにたんぽぽの家からお借りした、障害のあるアーティストのつくった大きな赤いお面があります。お面全体に白点が繰り返し描かれていますが、一つひとつの点は高い精度のものがあるとか、その配置に正解があるわけではなくて、なにかがそこにあって面が埋められていることが重要な印象です。点の積み重ねが、全体の画面を決めていくようなつくり方をしている。僕がこれまで買い集めてきたコレクションのなかにも、縄模様が全体を覆う縄文土器のようなものから、骨や石・木などの素材の表面に満遍なく刻みや模様をつけていくようなものまで、同じようなトーンを見ることができます。
僕は学者でもなんでもない、ただのデザイナーなので、あくまで最終的な表現にフォーカスして、とにかく似ているものを集めていますが、それらを机に並べて眺めてみると、ひとつの反復行為から全体を鷲掴みにつくってしまうような、人間がものをつくったときにどうしてもそうなってしまう意味みたいなものが見えてくる。

—— たしかに。時代も場所も文脈も異なるものたちが、ひとつのトーンのもと集められていくと、個々の差が見えなくなっていくのを感じます。

そうです。つまり、1 人〜複数人がつくったかもしれないし、障害のある人がつくったかもしれないし、日本ではない場所でつくったかもしれないということ。そうやって、時代や土地の違い、障害のありなしなども関係なく、人間の表現という地平で眺めることをしている。それが答えであり、仮説であり、これからのものづくりや新しい伝統工芸を考えていく上で必要なことだと思うんです。
社会のなかにある溝や分断を調べて、もののつくられ方を分析・トレースしていくと、実は埋めようとしていた溝自体がつくられたものだとわかる。障害という言葉が意味するところもそうで、社会が効率よくまわっていくために便宜上、分けられていると言ってもいい。本来、そんな区分があるわけではないんです。これまで「溝を埋める」という表現をしていましたけれど、もともとそこにはなかった分断を、「やっぱりなかったね」と再認識していく行為でもあるのだと思います。

𠮷田 勝信(よしだ・かつのぶ)

1987年、東京都新宿区生まれ。山形県を拠点にデザイン業を営む。グラフィックデザインを主な領域として、フィールドワークを取り入れた制作を行っている。ブランディングやコンセプトメイキング、商品企画、サービス設計などに携わる。家業の染色工房では染材、繊維の採集やテキスタイルデザインを担っている。

photo: Kohei Shikama

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