本サイト内のどこかに
音の出るポイントがあります。
音無しでもご覧いただけます。

or

Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Interview

2021.01.31 (sun) - 02.01 (mon)

足下にある素材の豊かさが、
わたしたちのアイデアとなる

高橋 孝治

文・永江 大(MUESUM)
収録:INAXライブミュージアム 土・どろんこ館(愛知)

photo: Hidenao Kawai

2016年から愛知県・常滑に拠点を移したデザイナー・高橋孝治。2017年より、常滑焼を含む1,000年続くやきものの産地と関わりつつ、地元の福祉施設との協働をスタート。取り組みを通して両者の接点を見出す彼に、ものをつくる上での新しさ、伝統について聞く。

自身の役割を見出し、新しい点を打っていく

—— 「NEW TRADITIONAL(以下、ニュートラ)」という言葉の意味や可能性を議論する本プロジェクト。ニュートラと聞いてどんなことを考えましたか?

僕の仮説としては、ニュートラって「人」だと思っているんです。どういうことかというと、例えば、常滑の朱泥急須。これは、ひと昔前から暮らしの定番アイテムになっています。その背景には、この急須を最初に仕掛けた人がいる。江戸時代中期頃から中国から滑らかな土を使った茶器(朱泥急須)が日本へと入ってきたんですが、そこで、常滑陶業中興の祖といわれる鯉江方寿(こいえ・ほうじゅ)が中国の文人・金士恒を招聘し、独自に研究していた地元のつくり手たちに当地の工法を伝習させた。方寿はその後、土管を発明し量産を指揮して、広く日本の近代化にも貢献しています。この人こそ「ニュートラ」ですよね。産地におけるものづくりの文脈に、質の高い点を打つことで、それが現代の産業にまで連なっている。

わたしのニュートラ展では、朱泥急須と土、土で染められた知多木綿がセットで展示された

photo: Shungo Takeda

—— 「質の高い点」とは、次代に響くもの・ことをつくること。それを仕掛ける人こそニュートラだと。

そうです。「新たな点」を打ち、それが形式・様式化され、あるものは伝統工芸として受け継がれながら、さまざまな人の暮らしに浸透していく。僕がデザインをするときに考えているのも、同じ視点です。常滑を拠点にしていると、方寿のように質の高い点を打った人たちが過去にいて、それによって産地が成り立ってきたという大きな流れがくっきりと見えます。そこでどんな新しい点が打てるか。

—— 常滑におけるものづくりの文脈に、自身の立ち位置を見出しているわけですね。高橋さんの、ものをつくる前提のひとつはそこにある。

常滑がやきものの産地として現在まで持続できたのも、その時々のニュートラが数世紀ごとに点を打ち、新たな様式を築いているからこそだと思うんです。僕はそれを1,000年続く窯元のある産地=六古窯に関わるなかで強く感じました。時代の要請に産地が応える、ある種の節操のないものづくりによって成り立ってきた部分もある。そんなことを考えながら、今回の「わたしのニュートラ」展では、新たな形式・様式を生み出していくだろう人たちに関わってもらいました。

土と向き合い、“つくる”を発見する

—— 「わたしのニュートラ」展では、常滑の福祉施設のメンバーや企業、つくり手との協働が、漉き紙やタイル、染布などのテストピースや商品になりました。プロジェクトが始動した経緯を教えてください。

2017年から常滑市社会福祉協議会の仕事を受けて、「就労支援施設での地産商品の開発」というミッションをもらったのがきっかけです。「福祉」の領域にもう少し入り込んで進めたいと思い、2018年からは週一で「ワークセンターかじま」に勤めはじめました。デザイナーとはじめて仕事をする人が大半で、僕自身も福祉や就労支援施設のことをよく知らないこともあって、この3年ほどは、ものをつくったり絵を描いたりして利用者の人たちやケアスタッフと関わり合い、お互いのことを知っていくような期間でしたね。

そんな地道な関係づくりを進めていたからこそ、今回の「障害のある人の表現と伝統工芸の相互発展」というニュートラのコンセプトと展示のお話をいただいたとき、正直お受けするか迷いました。じっくりとできないまま煮詰まっていないものを“良く”見せるようなことはしたくなくて。ただ同時に、自分が暮らす地域のやきものの仕事と、福祉の関わりに接点を見出したいという想いもありました。

プロジェクトに踏み切ったきっかけは、ワークセンターかじまの環境整備で、敷地に転がっていた電纜管(でんらんかん/ケーブルを保護するための陶器)を利用した柵づくりでした。常滑のあちこちで、土管や焼酎瓶などやきものの不良品を再利用しているのを見ていて、「よし」って。でも電纜管は60cmくらいあるんですが、めちゃくちゃ重たい。柵を支えるにはもっと軽くて小さい束石で十分でしたが、それを基礎として据えるため、同じくらい穴を掘りました。そうしたら粘土層に当たったんです。思わず、施設長の桜庭さんに「粘土出ました!」と報告しましたよ(笑)。

今回の展示に参加してもらった陶芸家の鯉江明さんにも土を見せたら、「うちの土と似てる」って。そのときに、施設でとれた土を素材にものをつくっていくのは面白い!と、商品のアイデアや利用者さんと楽しくものづくりをするイメージが湧いてきて。この体験を思い返すなかで決心がついたんですね。

ワークセンターかじまの敷地で掘り出された粘土

photo: Shungo Takeda

—— 身近なところに、ものをつくるきっかけがある。

そう思います。僕自身、ここ数年はディレクターやコーディネーター業が続いていて、プロダクトデザインの仕事をほぼしていなかったので、粘土が出て自分で「つくりたい」欲求を無視できない状況になったのも良かった。

あと、鯉江明さんのお父さんで、陶芸家の鯉江良二さんに一度門前払いを受けた経験も大きいです。というのも、六古窯のプロジェクトで生前の良二さんにインタビューする機会があって。真っ先に「(やきものを)掘ったことあるか?」と聞かれたんですね。「ないです」と答えたら「出直してこい」って。後日、明さんに連れられて知多半島をめぐり、いろんな場所で土に触れた経験は僕のなかですごく大事。良二さんにもあらためてその経験を報告して、取材できたんですが、彼らから学んだのは、考え方だけでなく目の前にある「素材」からクリエイションがはじまっているということ。ものの形に目を向けてきた自分にとってショッキングなことでもありました。

産地に共有されているものを、見える形にしていく

「素材」に目を向けると同時に、大前提としてあるのが地球環境への配慮。科学が進んで地球の資源が有限だとわかったいま、ものをつくる人に求められる最低限のエチケットですよね。それをふまえ、時代に合ったつくり方で未来に投げかけるものをつくる人こそ重要だなと。ニュートラの展示に関わるみなさんもそうですが、例えば六古窯のひとつ、備前焼のつくり手・木村肇さんもそのひとり。

—— 『NEW TRADITIONAL PAPER 2020-2021』のなかでも、木村さんのワインカップとすり鉢、スパイスミルを取り上げていますね。

一見突飛なアイデアに感じる焼き締めのワインカップも、ジョージア発祥のワインが素焼きの瓶で仕込まれ、同じく素焼きのカップで飲まれていたことにならっている。それを踏まえてワインをつくっている人が現代にいるんだから、その人たちのワインを受け止めるものも素材に近い焼き締めでいいんじゃないかという発想ですね。

加えて話すと、「備前焼」は岡山県の伊部地区——備前焼発祥地域の粘土を使い、薪窯で焼いたやきもののことを指しますが、江戸時代から高価な茶道具として重宝されてきた歴史があります。いまでは、限られた資源を見越してつくる量を抑えつつ単価を上げ、窯元やつくり手自身が直売している。それを価値のあるものだと使い手が考えて購入しているんですね。僕はそんな備前焼(の状況)を、近代の工業化を経て生産量や規模が膨らみ過ぎた産地の、淘汰されたあるべき姿のひとつとして見ています。木村さんは、備前焼の先人がつくったルールや質の高い点を咀嚼しつつも、ワインカップのように伝統を更新するような仕事をされている。この人はニュートラですよね。

—— いまの時代に合うやきもののあり方を探りつつ、もともとどう扱われていたのかを俯瞰して考えている、ということですよね?

中世まで遡って、そのときのユーザーは誰だったのか、もしかしたら神様だったんじゃないか。そういうことを妄想しつつ、いま何が可能かをものをつくりながら示しているように見える。繰り返しになりますが、木村さん含めたニュートラたちから僕が学んだのは「素材」との向き合い方です。形はどうあれ、その土地の土でつくられているとか、素材の物語が内包しているものにこそ魅力を感じていて。やきものは、土地そのものじゃないですか。だから今回の展示では、やきものになる前の土や、染め上がった土の色など、目の前にある素材の豊かさを見せているんです。

—— 会場でもおっしゃっていましたが、新しいことはしていない。

そうですね。展示会に来てくださった陶業関係者のみなさんも、土で染まると色が落ちないというのは日常的に実感していて、それを福祉施設との取り組みのなかで用いたことを評価してくれました。産地では、特に言う必要もないほど当たり前に共有されている知識だからこそ、今回のようにあらためて見える形にしたことで、「土で染める」っていうことが逆に新しく見える。

例えば、昔の家屋はすべて自然素材でできていて、その土地でとれる土を壁などに塗り込んでいることが当たり前でした。そうした昔の人たちの営みは、いまでは途切れてしまったように見えますが、それらを素材と向き合ってつなぎ直すことが、新しい点を打つこと、ひいてはニュートラへと導いてくれるのかもしれません。

高橋 孝治(たかはし・こうじ)

株式会社良品計画の生活雑貨部企画デザイン室を経て、2015年に愛知県常滑市に移住。常滑を拠点に企業や団体とプロジェクトを進行。2016〜2018年、常滑市陶業陶芸振興事業推進コーディネーター。2017〜2019年、六古窯日本遺産活用協議会クリエイティブディレクター。

Related Magazine

Interview

2022.01.27 (wed)

過去も未来も、
美しいものが好きなんです

川﨑 富美

文・永江大(MUESUM)
収録:Am’s ギャラリースペース(鳥取)

インハウスデザイナーとして商品企画に携わり、2017年より地元・鳥取へ移住したデザイナー・川﨑富美。手仕事や民藝のリサーチ、福祉施設との協働、商業施設のディレクションなど幅広く手がけている。川﨑が考える、もの、ものづくりについて話を聞いた。

Read more

Interview

2020.03.21 (sat) - 22 (sun)

ものをつくる前提を引き受けること
人の表現の地平を眺めること

𠮷田 勝信

文:永江 大(MUESUM)
場所:とんがりビル KUGURU(山形)

山や森をフィールドに、自然の素材、古くから続く技術を取り入れ、ものづくりを行う𠮷田勝信。手や道具・素材のくせ・質から生まれる、予期せぬ“ 揺らぎ”を内包した表現が特徴だ。山形・大江町を拠点に活動する彼が考える「NEW TRADITIONAL」、新しい伝統工芸・ものをつくる作法について聞く。

Read more