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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Insight

2021.02.19 (fri), 02.26 (fri), 03.13 (sat), 03.24 (wed)

ニュートラに関わる実践者に聞く
これからのものづくりを考える4つの視点

photo: Shungo Takeda

1. やまがたアートサポートセンターら・ら・ら コーディネーター 武田和恵さん
2. 一般財団法人たんぽぽの家・社会福祉法人わたぼうしの会 理事長 播磨靖夫さん
3. ドンタク玩具社/デザイナー 軸原ヨウスケさん
4. プランナー/ててて協働組合 永田宙郷さん

2021.02.19 (fri)

1. 武田和恵さんに聞く
小さな循環のなかで協働し、互いの価値を見出していく方法

(やまがたアートサポートセンターら・ら・ら コーディネーター)

—— 山形を拠点とするデザイナー、福祉施設、緞通生産者によるプロジェクト「NEW DANTSU」の取り組みを行うなか、感じたことを教えてください。

昨年から地域の福祉施設や工房でワークショップを実施し、関わる人たちの個性を生かした商品開発を行っています。私は各所をつなぐコーディネーターとして参加。分野を横断していろんな人が関わる取り組みだからこそ、役割の重要性を再認識しました。例えば、デザイナーの提案に対し、福祉施設側は遠慮して「それでいいですよ」と受け入れてしまう。そうすると、なぜ施設の利用者が関わっているのか、この取り組みで何を大切にしたいのかがぼやけてしまいます。いろんな人が関わる=全員が妥協点を探す必要があるときに、ただその場を丸く収めるのではなく、各々の持ち味をどう生かせるかが重要です。

—— 活動を行っていくなかで、協働するための課題が見えてきた。

社会と関わるとき、「下請け」に従事することが多い福祉施設は、生産性を求め、正解と不正解、適合と不適合など「ゆらがない」ための基準を設け、支援することがあります。今回、デザインのルールは決めつつも、ゆらぎ・遊びの幅を持たせることができました。また、個々の持ち味を生かしつつ、お互いの価値に気づけたのも大きな成果です。実はいま、彼らの協働が次の商品開発へつながりつつあります。山形の小さな圏内で実現できたことの価値は大きいと思います。

武田 和恵(たけだ・かずえ)

1977年山形県山形市生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部卒業。学生時代にたんぽぽの家のボランティアに参加したことをきっかけに、山形市の福祉施設で働きはじめる。2012年から、一般財団法人たんぽぽの家、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの東日本復興支援プロジェクト東北事務局として、障害のある人の仕事づくり、芸術活動支援事業に携わる。2018年から、やまがたアートサポートセンターら・ら・ら コーディネーター。

2021.02.26 (fri)

2. 播磨靖夫さんに聞く
現代が喪失した記憶を取り戻すものづくりにおける利他性

(一般財団法人たんぽぽの家・社会福祉法人わたぼうしの会)

—— コロナ禍において、いま感じていることを教えてください。

「利他性」「利他主義」に気づくようになってきたこと。これはコロナ禍で生まれた新しい感覚です。ものづくりも、自分だけが売れてお金を儲けるということではなく、他人を幸せにする、他人のために祈るといったことが重視されていくと思います。また、自由でいられない状況や死ぬことが急に身近になったいまこそ、新たな思想が生み落とされるときです。室町時代の乱世に、茶道や華道が生じ、それが現世に至るまで残っているように。

—— あらためて「NEWTRADITIONAL」とは?

日常生活を取り戻すにあたり、みんなが求めるものは何かとよく考えます。イメージするのは、意味や合理性だけでは説明できない不思議なもの。それがニュートラのつくるものになる。僕は、伝統工芸とは愛と祈りだと考えています。先日奈良で、室町時代の墓から副葬品として小さな犬のやきものが出土したそうです。「形見」とは、愛用してきた人の記憶が、姿が、ものを通して見える、そういうもの。かつては形見も「贈与の循環」の一部だったわけですが、現代の生活からは遠のいてしまいました。思うに、こうした「記憶」の消失が、現代人の生を不安定にさせている。この記憶をどう復活させるのかという点に、今後へのヒントがあるのではないでしょうか。

播磨 靖夫(はりま・やすお)

1942年生まれ。新聞社記者、フリージャーナリストを経て、市民運動として「たんぽぽの家」を設立。障害のある人の芸術活動支援に従事し、アートと社会の新しい関係をつくる「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を提唱。平成21年度芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)受賞。

2021.03.13 (sat)

3. 軸原ヨウスケさんに聞く
「伝統」からこぼれ落ちていく手仕事に目を向ける姿勢・思想

(ドンタク玩具社/デザイナー)

—— 軸原さんは、郷土玩具や民藝などの伝統を伝える活動をされてきました。

いまある「伝統」は、時の流れのなかで勝ち残ってきたものですが、重要なのは、残らなかったものにも目を向けることだと思います。戦前の趣味人や蒐集家は、つくるのをやめていた工人さんを訪ねて、郷土玩具やこけしなどを再製作してもらうことが多々ありました。また、郷土玩具が絶えてしまうという危機感から「創生玩具運動」を起こした有坂与太郎という人もいます。伝統には根ざさないけれど、地元の素材でつくられた半分デザイン玩具みたいなものですが、こういうものだってしばらく時間が経つと伝統みたいな顔をしていたはず。「伝統とは何か」ということは、これからもっと考えなければいけないと常々感じています。

—— ニュートラもその定義を常に議論しています。郷土玩具もそうでしょうか。

「玩具は民藝か」「玩具は工芸か」という議論も盛り上がってきました。言うなれば、現在は「工芸の思春期」のようなもの。ここからどう広がり、分岐するか予想はつきませんが、より広く「工芸とは何か」が問われる時期が訪れつつあるのだと感じています。たんぽぽの家の活動を拝見すると、マイノリティの立場から発信することと、手仕事の喜びとが両立していることに驚きます。加えて、それを商品として流通に乗せている。伝統を残すかどうかとは別に、手仕事の喜びを伝えることもとても重要な取り組みだと思います。

軸原 ヨウスケ(じくはら・ようすけ)

2015年、新型こけし・創生玩具などのデザインプロダクトを開発する「ドンタク玩具社」を設立。従来の郷土玩具の「新しいかたち」を提案している。あそびのデザインをテーマに活動するCOCHAEのメンバー。民藝の根っこを丁寧に辿りながら、今日の美術や工芸のありかを探る近著『アウト・オブ・民藝』(軸原ヨウスケ・中村裕太共著、誠光社、2019)も注目を集める。

2021.03.24 (wed)

4. 永田宙郷さんに聞く
ものをつくり、伝え、届け、使う、これからのものづくりの生態系

(プランナー/ててて協働組合)

—— 主宰されている「ててて協働組合」の活動について教えてください。

2011年に「ててて協働組合」という組織を立ち上げ、文化背景や素材や技術へのこだわり持ったものづくりを軸としながら、つくり手・使い手・伝え手が共鳴し合える場づくりを行っています。その一環として、年1〜2回「ててて商談会」を開催しています。コロナ禍で売り手と伝え手、買い手の対話や実店舗での販売機会が減っていますが、質量感や肌触りなどまだオンラインでは伝えきれないですし、単に利便性や効率性を高めるだけではない生活の道具を大切に考えるバイヤーや使い手が増えてきていると思います。

—— ものを販売するにあたって、いま求められていることは何でしょうか。

ものを販売する際に、急ぎ、使い続けるための仕組みや環境を準備するべきだと考えています。これまでは高級店や高級ブランドはアフターケアまでが売りだったりすると思うのですが、これからは普段使いのものでもどう使い続けていけるのかが価値となり、選ばれる条件になると思います。また、ててての活動では、polyphony(共鳴)とlinkage(縁)という言葉を大切にしてきました。自らの固有性とものづくりの多様性を維持しながら、自分たちなりの生態系をつくるようにつながっていくということです。そんな、自社だけでなく他社や使い手・つくり手との関係づくりを意識したものづくりが生き残っていくと考えています。

永田 宙郷(ながた・おきさと)

福岡県出身。金沢21世紀美術館(非常勤)、デザイン会社等を経て現職。「ものづくりをつくる」をコンセプトに、伝統工芸から先端技術まで数多くの事業戦略策定と商品開発に従事。2012年よりつくり手と使い手と伝え手をつなぐ場として「ててて商談会(旧ててて見本市)」を共同主宰し、販路まで含めたつくり手の支援と環境づくりを行う。

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2020.05.26 (tue), 06.03 (wed), 06.05 (fri), 06.22 (mon)

ニュートラに関わる実践者に聞く
これからのものづくりを考える4つの視点

1. 京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任教授 水野大二郎さん
2. NOTA&design /デザイナー 加藤駿介さん
3. 株式会社うなぎの寝床 代表取締役 白水高広さん
4. ippo plus 主宰 守屋里依さん

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