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Magazine/ ニュートラをめぐるテキスト

Insight

2020.05.26 (tue), 06.03 (wed), 06.05 (fri), 06.22 (mon)

ニュートラに関わる実践者に聞く
これからのものづくりを考える4つの視点

photo: Kohei Shikama

1. 京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任教授 水野大二郎さん
2. NOTA&design /デザイナー 加藤駿介さん
3. 株式会社うなぎの寝床 代表取締役 白水高広さん
4. ippo plus 主宰 守屋里依さん

2020.05.26 (tue)

1. 水野大二郎さんに聞く
インターネットや最新技術によって変化する、創造性と豊かさのあり方

(京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任教授)

—— いま、ものをつくることの周辺でどんな変化を見ていますか?

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、人々の移動が制限されるに従い、物理的な場で物理的なものを売る・伝えることの意味が問い直され、同時に、形のない空間に形のないものを展開することに、日常的に親しむ人が増えてきているように感じます。つくる・伝える・買うという行為が、仮想的な情報の世界と分かちがたい状況になってきている。

—— そんななか、つくり手も対応を迫られています。

物理的なものづくりは、これまでは観光客などの「動く人」を対象に、物理的な空間にとどまっていました。しかし今後は、ものをつくる際に物理的な素材・技法とデジタルのデータを組み合わせたり、情報伝達のためにWebメディアを駆使したり、つくったものを体験してもらうための工夫なども求められるでしょう。情報は重さがないので、スタートアップが簡単。既存のアプリ、オンラインメディアや決済システムの利活用のみならず、新しいWeb サービス開発までさまざまな事例が見られます。このような物理的制約に縛られない活動領域は未来の伝統工芸や障害のある人のものづくりに影響を与えうるものです。業務効率化や利益最大化のためだけに情報技術を用いるのではなく、個人の能力を最大限引き出し、新しい創造性を生み出す可能性がそこにあります。

水野 大二郎(みずの・だいじろう)

2008 年Royal College of Art 博士課程後期修了、芸術博士(ファッションデザイン)。京都大学デザインスクール特任講師、慶應義塾大学環境情報学部准教授を経て現職。デザインと社会を架橋する多様なプロジェクトの企画・運営に携わる。

2020.06.03 (wed)

2. 加藤駿介さんに聞く
ものが持つ、複雑な質感や強度を伝えるための作法・方法

(NOTA&design /デザイナー)

—— 新型コロナウィルスの影響が、いろんな形で社会に現れています。

NOTA_SHOPも4月から5 月は展覧会を中止し、お店を閉めていました。世間では、オンラインの販売や展覧会が増えていましたが、日用品と違い機能を持たないオブジェや複雑な質感を持つ工芸品の魅力は、オンライン上で伝えきれないなと思い、実施しませんでした。6 月にやっと展覧会を開催して、人の移動制限を考慮しつつオンラインでの開催も計画中です。

—— Web上ではどんなことを?

実際に会って話す生活には、偶然の発見がさまざまな場面であり、そして効率化のみに準拠しないという良さがあるなと思って。オンライン上で活動する際には、あえて鑑賞者にちょっとしたハードルを設けて、ものと出会うための非合理的な仕組みも取り入れられたら面白いなと。オンラインに“ 無駄”を取り入れたいんですよね。工芸もアートも、基本的には生活空間のなかに置かれます。店舗のレイアウトで意識しているのは、もの単体に接近した見せ方ではなく、異なるものたちとの組み合わせをひとつの空間のなかで提示して、使い手の想像を膨らませるようなこと。EC サイト上でも、この「ものの組み合わせ」の変化を定期的に起こしつつ、Webならではの楽しみ方ができる仕掛けを構想中です。

加藤 駿介(かとう・しゅんすけ)

1984年、滋賀県信楽町生まれ。東京の広告制作会社に勤務後、地元である信楽に戻り1881年に創業した家業である老舗「ヤマタツ陶業」にて陶器のデザイン、制作に従事。新しい陶器ブランドの設立や企業とのコラボレーションを社内にて構築後、陶器を軸にしたライフスタイル全般のデザイン、制作販売業務を行う「NOTA&design」を設立。

2020.06.05 (fri)

3. 白水高広さんに聞く
つくる・伝える・使うを循環させるものづくりの生態系

(株式会社うなぎの寝床 代表取締役)

—— 伝統工芸×福祉の実践、取り組みをどのように見ていますか?

たんぽぽの家では、福祉・工芸・素材・知財といった異なる要素を組み合わせて、ものをつくる試行をしていますよね。そのフローを発信していくことによって、ほかの福祉施設がより主体的にものづくりや仕事に取り組むことにも寄与できる。また、ニュートラの実例づくりでは、「型」に対する変換プロセス( 絵画作品を織物にする、粘土作品を3 D プリンタで出力するなど)を重ねることで、作家性を揺るがす面白いものが生まれている印象です。

—— ニュートラを考える上で、重要なことって何だと思いますか?

ものづくりの生態系=循環の仕組みから考えること。いま「KATA プロジェクト」という、ものづくりの循環の仕組みを構想中です。そのなかで、ものをつくる・伝える・使うに関わる人たちの生産や販売の経済圏、型紙という概念の解釈(レシピ、図面など)、知的財産権管理、品質管理、販売プラットフォームなどの要素を見直しています。この仕組みを利用することで、ものの価値が付与されると協働者が感じられる水準まで高め、知的財産権の社会への開き方を検討し、相互に豊かな状態でいられるバランスを試行中です。つくる・伝える・使うも含めた生態系に、次の伝統のあり方を見出せるのかなと考えています。

白水 高広(しらみず・たかひろ)

1985年佐賀県生まれ、大分大学工学部卒業。2012年7月にアンテナショップ「うなぎの寝床」を立ち上げる。活動の幅はメーカー、コンサルティングなどへと広がり、地域文化商社と業態を変更させ展開を続ける。

2020.06.22 (mon)

4. 守屋里依さんに聞く
ものの伝え手にとっての人・もののよい関係性・距離感

(ippo plus 主宰)

—— 4月・5月の自粛期間中はどのように過ごされていましたか?

この数ヵ月、自然の美しさをより感じるという人が増えましたが、人がつくるものの美しさや尊さを体感する機会に飢えた人も多かった印象です。そのなかで、顧客の方から「ギャラリーで購入した作品が生活の潤いとなり、精神的な助けになった」という言葉を聞きました。東日本大震災のときも今回も「ギャラリー運営は社会に実益をもたらしていないのでは」と力のなさを感じていた折、いただいた一言によって仕事の意義を強く感じています。そして、自分のギャラリーは「体験や感覚に出会う場であること」を大事にしているのだと、より明瞭になりました。

—— ニュートラの取り組みを通して考えたこと、感じたことを教えてください。

障害のある人の作品を紹介する際、これまでの自分であれば「障害」ということをあえて言わずにいました。しかし、実際に障害のある作家と関わったことで、その人が生きてきた時間を語る際に「障害」を抜きに語るのは不自然だと思ったんです。誤解をおそれず言えば、障害があるのと同時に優れた感性を持っているということを、うらやましく感じています。私はものの伝え手として、自分の心を動かすものをつくる、感性のある作家をうらやましく思いながら、同時に愛し、彼らを紹介するための作業を非常に楽しんで行っているのだなと改めて思います。

守屋 里依(もりや・さとえ)

大阪のギャラリー兼サロン、ippoplusと無由主宰。年に数回、作家の展覧会と美しさにまつわる催しを開いている。幼い頃から父親の影響で生活のなかに「お茶の時間」があり、自然とお茶と向き合うようになり、煎茶道を経て、2015年より台湾茶道 留白のPeru氏に師事。2017年より御菓子丸の杉山早陽子とともに、茶と菓子から拡がる美しさのいろいろを感じる会「景譜」を不定期に開催している。

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2021.02.19 (fri), 02.26 (fri), 03.13 (sat), 03.24 (wed)

ニュートラに関わる実践者に聞く
これからのものづくりを考える4つの視点

1. やまがたアートサポートセンターら・ら・ら コーディネーター 武田和恵さん
2. 一般財団法人たんぽぽの家・社会福祉法人わたぼうしの会 理事長 播磨靖夫さん
3. ドンタク玩具社/デザイナー 軸原ヨウスケさん
4. プランナー/ててて協働組合 永田宙郷さん

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